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札幌地方裁判所小樽支部 昭和43年(ワ)64号 判決 1970年1月14日

原告

加藤光次

被告

藤本運輸株式会社

ほか一名

主文

被告等は各自原告に対し、五一万一、七三二円および内七万四、〇七四円に対する昭和四四年一一月一三日から、内四三万七、六五八円に対する同四三年四月二〇日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担、その余を被告の負担とする。

この判決は主文第一項に限り被告等に対し各自一五万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

申立・主張・立証

第一、申立

原告

「被告等は各自原告に対し、二四三万七、五七五円およびこれに対する昭和四三年四月二〇日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決および仮執行宣言を求める。

被告等

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二、主張

原告の請求原因

一、事故の発生

原告は次の交通事故発生により傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四〇年四月一九日午前一〇時三〇分頃

(二)  発生場所 小樽市厩町三井木材置場附近道路(以下「本件道路」という)

(三)  事故車 大型貨物自動車札一あ五〇三二号

(四)  運転者 被告高村吉信(以下「被告高村」という)

(五)  被害者 原告

(六)  事故の態様 被告高村は被告車を運転し、本件道路上を手宮町から高島町へ向けて進行中、同一方向に向い右道路上を進行していた原告運転の自転車を追越したがその際同車と接触し、原告は路上に転倒した。

(七)  受けた傷害の内容

1 原告は右接触のため右足大腿骨皮下骨折、下腿高度壊爛、右大腿部切断の傷害を負つた。

2 原告はこのため本件事故の日から昭和四一年七月中まで入院治療を受けた。

3 原告は大腿部切断の手術を受け、義足を使用している。

二、責任原因

(一)  運行供用者

被告藤本運輸株式会社(以下被告会社という)は被告車を所有し、これを被告高村に運転させて、これを自己の営業のため運行の用に供していたのであるからその運行によつて生じた損害を賠償する義務がある。

(二)  被告高村

被告高村は先行する原告運転の自転車の動静に注意し、警笛をならし、右側に寄つて右自転車との間隔をとつて追越すべき義務を怠つた過失により本件事故を惹起した。したがつて右事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

三、損害の発生

原告は本件事故によつて次の損害を蒙つた。

(一)  治療費残 四万七、〇七五円

小樽病院医療費未払金

(二)  付添費用 一九万二、五〇〇円

原告の母加藤ナカは事故発生前から一カ月平均二五日間の加工業の出面をして働き、一日七〇〇円の収入を得ている。同人は原告の事故当時昭和四〇年四月一九日から四一年七月まで付添い、その間右収入を得ることができず、右得べかりし利益を失つた。同四〇年四月分、六ないし八月分の付添費は保険から受領したので、その残一一カ月分(同四〇年五月分、同年九月から翌四一年六月まで)の合計額

(三)  義足代

(1) すでに支出した費用

義足二回分 代金 五万円

杖 二回分 代金 二、〇〇〇円

(三回目の分は贈与を受けた。)

(2) 昭和四三年から満二〇歳まで五年間

毎年義足および、杖を取替える要がある。

(3) 二一歳から五六歳まで四六年間

義足 二年に一回、杖 毎年取替える要がある。

原告は昭和二八年八月二日生れで、事故発生時満一一歳七カ月第一一回生命表によると余命は五六年である

(4) (2)、(3)の合計

義足代 五七万五、〇〇〇円

杖代 四万六、〇〇〇円

ホフマン式計算法により算出すると二〇万七、〇〇〇円

(四)  得べかりし利益

原告の就労可能期間満二〇年から四〇年間、事故にあわなければ満二〇年から満三〇年までは純益一カ月一万三、〇〇〇円(一カ月の収入二万五、〇〇〇円から生活費一万二、〇〇〇円を差引いたもの)合計一五六万円、右以後三〇年間は純益一カ月一万五、〇〇〇円(一カ月の収入四万円から生活費二万五、〇〇〇円を差引いたもの)合計五四〇万円、総計六九六万円となる。これをホフマン式方法により算出すると、二三二万円の利益を得ることができたのに本件事故により労働能力を三分の一減少されその三分の一、七七万四、〇〇〇円の得べかりし利益を失つた。

(五)  慰藉料 二〇〇万円

本件事故の態様、傷害程度、後遺症等の事情を考慮すると慰藉料額は右額が相当。

(六)  自賠責保険金等の控除

原告は、本件事故について被告から見舞金として合計八万五、〇〇〇円を受取つたほか、自賠責保険金として七五万円を受取つた。

四、結論

よつて原告は被告等に対し、損害額の総計から前項(六)の金員を差引き二四三万七、五七五円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年四月二〇日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告等の答弁

請求原因一の事実中、原告主張の日時場所において、被告高村運転の被告車が原告運転の自転車を追越したこと、その際原告が路上に転倒してけがをしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同二(一)の事実中被告会社が運行供用者であることは認める。(二)の事実は否認する。

同三の事実中原告の生年月日が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は争う。

被告等の抗弁

本件事故は専ら原告の過失のみによつて生じたもので、被告高村に過失はない。

原告の右抗弁に対する答弁

右抗弁事実は否認する。

〔証拠関係略〕

理由

一、昭和四〇年四月一九日午前一〇時三〇分頃小樽市厩町三井木材置場附近道路(以下「本件道路」という)を原告が自転車に乗つて手宮町方向から高島町方向に向つて進んでいたところ、後方から同方向に向つて進んでいた被告高村運転の被告車が右自転車を追越したこと、その際原告は路上に転倒し、けがをしたこと、被告会社は被告車の運行供用者であること、以上の事実は当事者間に争がない。

二、〔証拠略〕をあわせ考えると、次の事実が認められる。

本件道路は幅員が中央舗装部分六米、両側の非舗装部分各一・七米の道路で舗装部分が非舗装部分より五糎程高くなつていたこと、被告高村は道路舗装部分をその左端から一米位の間隔をとつて高島町に向け被告車を運転して現場にさしかゝつたこと、その際前方二七米程先を少年である原告の運転する自転車が道路左側舗装部分と非舗装部分の接線あたりの非舗装部分を進み、その前方一米位のところを同じ年頃の石井等の運転する自転車が、原告車より三〇糎程非舗装部分に入つたところを進みこれらの車がとまりかけているのを認めたことが、被告高村は自車とこれら自転車との間の間隔があり、追越ができるものと考え、特にこれらの状況に配慮することなく速度を二五キロ位にしてそのまゝ進み原告車の追越にかゝつたこと、他方原告は後方から被告車の来るのに気付き、同行の友人である石井にも声をかけてそのことを知らせ、停車しようとしてブレーキをかけたが、その自転車は二六インチ大人用ので台は下げてあつたものゝ踏みこんだときに足首をのばせばつく程度のものであつたため、急いだこともあつてよろけてしまい、そこを傍を通りぬけようとして進んで来た被告車に吸いこまれるようにして舗装部分に傾いた為、被告車の左側後輪と自転車のハンドルがわずかに接触し、原告は自転車もろとも舗装部分側に倒れたこと、被告高村は右接触がわずかであつたためそれに気がつかないまゝ進んだこと、当時他に対向車はなかつたこと。

以上の事実が認められ、前掲証拠中、右認定に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右し得る証拠はない。

三、以上の事実に基づいて判断すると、被告高村は前方左端を少年である原告が大人用の自転車に乗つてとまりかけているのを認めながら右状況に即応した配慮をすることなくそのまゝ進んだのであつて、この点に過失があり、右過失は本件事故の原因の一になつているものと認められる。

この点について被告会社の無過失の主張は採用できない。

四、しかし、前記認定の状況からみると、原告にも過失があり、本件事故は双方の過失が競合して惹起されたものというべきである。したがつて不法行為者である被告高村および運行供用者である被告会社は本件事故によつて生じた損害賠償義務を免れないが、他方原告の過失も大きく、本件事故に基づく被告等の原告に対する損害賠償責任は生じた損害について三〇%の限度で負担させるのが相当である。

五、〔証拠略〕によると、原告は本件事故によつて原告主張の傷害を受け、同四〇年四月一九日から同四一年七月中まで治療のため市立小樽病院に入院し、その間右大腿部切断手術を受け、義足を用いて生活をしていることが認められる。

六、そこで以下原告の蒙つた損害と右について被告等の負担すべき額について考える。

1  治療費残 一万四、一一二円

〔証拠略〕によると、原告は前記認定の入院治療による治療費残が四万七、〇七五円残つていることが認められる。したがつて被告はその三〇%一万四、一二二円(円未満切捨以下同じ)を負担すべきである。

2  付添費用 五万五、八六〇円

〔証拠略〕によると、原告の母は前記入院期間中を通じて原告に付添つていたこと、同女は事故前から毎年八月より翌年四月までの間魚加工業の仕事をし、平均一カ月二五日一日七六〇円の収入を得、五月から七月までは失業保険によりその六〇%の保険金を得ていたことが認められる。ところで右全期間の付添は絶対的に必要であつたと認める証拠はないけれども〔証拠略〕によると、原告は入院中大腿部切断手術を受けて義足をつけ、その歩行訓練をし、退院当時でも杖にすがつてようやく歩ける程度であり、原告の母はその訓練を手伝つていたこと原告は当時未だ一一歳であつたことが認められ、右のような病状にある子供に母が付添うことは無理からぬことであると考えられるから、これを必要的付添と同視するを相当とする。そうして本件において原告の母は看護上必要と認められる範囲において付添のために仕事を休んでおり、そのために受ける給料を失つたのであるから、その間の得べかりし利益を付添費用の損害として計算することは妥当であり、この損害は本件事故による損害とみることができる。

そうして右損害は、原告がすでに受取つたと自認する昭和四〇年四月分および同年六ないし八月分を除くと、一八万六、二〇〇円

{760円×25日×8ケ月(40.9月~41.4月)+760円×60/100×25日×3ケ月(40.5月41.5.6月)}

になり、右の三〇%である五万五、八六〇円が被告の負担すべき額である。

3  義足代 七万四、〇七四円

原告が右大腿部切断の手術を受けたことは前記認定のとおりであるから原告が一生の間大腿義足を要することは明らかである。

〔証拠略〕によると、原告は手術後本件口頭弁論終結の日である昭和四四年一一月一二日までの間に、同四一年に代金二万八、五〇〇円の、同四二年に代金二万四、五〇〇円の、同四四年に三万五〇〇円の各義足三本を新調し、そのうち一回目の義足代金は原告において支出し、他は福祉法により給与を受けたこと、又原告は杖も一本新調し、代金を負担したことが認められる。原告は三回目の義足代金も負担支出し、又杖も更に一回分求めたと主張するがこれを認めるに足る証拠はない。次に〔証拠略〕によると、杖は夜間に安全補助のために要るが一度作ればその後新調する要がないことが認められる。次に杖の代金は後記「補装具の種目、受託報酬の額に関する規準」によると右支給代金は九九〇円程度であることが認められるので右の限度で認める。

以上の事実によると、原告は昭和四四年一一月一二日までに義足杖の代金として二万九、四九〇円を負担したことが認められる。

次に児童福祉法二一条の一三、一四に基づく「補装具の種目、受託報酬の額に関する規準」によると、同法によつて支給される満一五歳以上一八歳に達するまでの児童の義足については価格三万二、五〇〇円、耐用年数二年であること、満一八歳以上に適用される身体障害者福祉法二〇条一項二一条に基づく「補装具の種目、受託報酬の額に関する規準」によると、同法によつて支給される義足の価格は三万二、五〇〇円、耐用年数は四年であることが認められる。ところで〔証拠略〕によると、右受託報酬の額は義足の最低価格であること、尚義足は成人に達するまでは成長度が高いためすりへり、事実上はその間耐用年数は二年であることが認められる。

とすると、原告は前記認定の事故後平均余命五六年間したがつて本件口頭弁論終結の日である昭和四四年一一月一二日から五二年間別紙のとおり合計一三本(成年に達するまで二回)の義足を必要とし、そのため義足代金として一回に三万二、五〇〇円合計四二万二、五〇〇円の支出を余儀なくされるものというべきである。これをホフマン式計算方法によつて右使用年度毎に年五分の中間利息を差引いて本件弁論終結当時における一時払に換算すると、(便宜右終結当時から二年、四年目に購入したものとして算出)二一万七、四二五円になることが認められ、これが昭和四四年一一月一二日現在における損害の価格である。右金員と前記認定の既払二万九、四九〇円の合計額の二四万六、九一五円の三〇%である七万四、〇七四円が被告等の負担すべき額となる。

4  逸失利益 八〇万二、六八六円

原告が昭和二八年八月二日生れで本件事故発生当時の年令が満一一歳七カ月であることは当事者間に争がなく、〔証拠略〕によると、原告は通常の健康を有していることが認められ、第一一回生命表によると、原告には少くとも五六年の余命があることが認められる。

次に労働大臣官房労働統計調査部第一八回労働統計年表によると、昭和四〇年四月全国の産業労働者一〇人以上二九人以下を雇傭する事業所における平均男子労働者の賃金(平均月間支給額+平均年間支給現金給与額×1/12)はいずれも原告の主張する満二〇歳から満三〇歳に達するまで一ケ月二万五、〇〇〇円、満三〇歳から満六〇歳に達するまで一ケ月四万円の額を越えるものである、すると、原告は前記のとおりの身体障害者とならなければ、将来二〇歳に達した後四〇年間稼働し、その間満二〇歳から満三〇歳に達するまでは一ケ月二万五、〇〇〇円、一年間三〇万円満三〇歳から満六〇歳に達するまでは一ケ月四万円一年間四八万円を下らない収益をあげることができるものと推認でき、右推認を左右するに足る証拠はない。ところで原告の受けた傷害の程度、年令を考慮すると、右障害により原告は全稼働期間を通じ原告主張のとおり三分の一の労働能力を喪失したものと認める。したがつて原告は満二〇歳から満三〇歳に至る一〇年間は毎年一〇万円、満三〇歳から満六〇歳に至る三〇年間は毎年一六万円の収益を失つたものとみられる。そうしてこれを事故時において一時に請求するものとして年令の端数を切上げて一二歳とした上ホフマン式計算法(年毎複式)によつて年五分の割合による中間利息を控除すると二六七万五、六二三円

{(10万円×18年の係数12.60324712-8年の係数6.58862764)+18万円×(48年の係数24.12637265-18年の係数12.60324712)}

になることが計算上明らかであり、その三〇%の八〇万二、六八六円が被告等の負担すべき額になる。

右額は原告主張額より多いけれども、損害額の合計が右主張額を越えない限り、右主張額を越えて認容することは許されると考える。

5  慰藉料 四〇万円

原告の前記傷害の程度、入院期間、後遺症の状況に原告の過失を斟酌すると、被告が負担すべき慰藉料の額は四〇万円が相当である。

1ないし5の合計額一三四万六、七三二円

七、原告が被告から本件事故に関し八万五、〇〇〇円を受取つたほか自賠法の保険により七五万円を受取つていることは原告の自認するところである。原告はその弁済充当の指定を4・5にしており、それについて被告らは何ら異議を述べないので、原告の主張にしたがい右受取金額を前記4、5の損害額から控除すると、被告らが支払うべき損害額は五一万一、七三二円になる。

八、以上の次第であつて、被告は原告に対し、損害金五一万一、七三二円と、内義足代七万四、〇七四円については弁論終結の日の翌日である昭和四四年一一月一三日から、その余の金員については訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな同四三年四月二〇日から各支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をすべき義務があるものと認める。

よつて、本訴請求は右の限度で理由があるのでこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条本文を、仮執行宣言について同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 丹宗朝子)

(別表)

<省略>

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